悪役令嬢は世界のバグを修正する
レティシアは、
動かないまま、
遺跡を見続けている。
崩れた外壁。
割れた柱。
露出した内部。
一見すれば、
ただの廃墟。
時間に削られ、
形を失った残骸。
(崩れてる……?)
自然な認識。
誰もがそう見る。
だが。
その感覚が、
わずかに引っかかる。
視界に広がる“構造”。
ルーンの連なり。
接続された線。
空間を満たす流れ。
そのどれもが――
“乱れていない”。
壊れているなら、
もっと不規則になるはず。
切断されるなら、
接続が途切れるはず。
だが、
ここにあるものは違う。
途切れていない。
ずれていない。
順序が保たれている。
ただ――
動いていない。
(……違う)
小さく、
確信が生まれる。
崩壊ではない。
破壊でもない。
停止。
視界の中で、
構造がそのまま固定されている。
実行されていないだけ。
処理が進んでいないだけ。
(これ……)
言葉にならない理解が、
形を持つ。
少し間。
(動いてないだけ)
結論。
ここにあるのは、
壊れた遺跡ではない。
停止したシステム。
その認識が生まれた瞬間、
世界の見え方が変わる。
崩れた壁は、
未実行の構文に。
地面は、
待機中の回路に。
空間は、
保留された処理領域に。
すべてが、
意味を持つ。
すべてが、
機能を持つ。
ただし。
今は、
止まっている。
レティシアは静かに立っている。
その理解を、
誰にも言わずに。
だがその瞬間、
彼女の中で一つの境界が越えられていた。
“遺跡を見る者”から、
“構造を理解する者”へ。