悪役令嬢は世界のバグを修正する
遺跡の内部。
隊列はゆるやかに崩れ、
各自が自由に動き始めていた。
生徒の一人が、
崩れた石壁に手をつく。
「普通の石だろ」
軽く叩く。
鈍い音が返る。
それだけだ。
別の生徒は、
半分崩れた段差に腰を下ろす。
「休憩にちょうどいいな」
笑い声。
誰かがそれに乗る。
「遺跡っていうからもっとこう……」
「罠とかあると思ってたわ」
気の抜けた空気。
緊張はない。
彼らにとってここは、
ただの古い場所だ。
教師たちは、
少し離れた位置で観察している。
「崩壊の程度は中規模」
「保存状態は部分的に良好だな」
記録を取り、
構造を確認する。
視点は歴史。
価値は資料。
未知ではあるが、
“理解できる範囲のもの”として扱っている。
騎士団はさらに外側。
配置につき、
周囲を警戒している。
視線は鋭い。
動きに無駄はない。
だが、
その対象は外部だ。
敵。
魔物。
未知の脅威。
この遺跡そのものを、
“脅威”としては見ていない。
そして――
レティシア。
彼女だけが、
その場に立ったまま、
何もしていない。
触れない。
座らない。
ただ、
見ている。
同じ壁。
同じ地面。
同じ空間。
だが、
見えているものは違う。
石ではない。
構文。
地面ではない。
回路。
空気ではない。
処理領域。
周囲の声が遠く感じる。
笑い声。
会話。
雑音。
それらはすべて、
“表層”のものだ。
(違う)
静かな確信。
ここは、
そんな単純な場所ではない。
全員が、
ズレている。
見えていない。
理解していない。
この構造を、
正しく認識しているのは――
自分だけだ。
レティシアはゆっくりと目を細める。
広がるルーン。
繋がる線。
止まった流れ。
そのすべてが、
明確な意味を持っている。
だが、
誰もそれに気づかない。
この場所は、
ただの遺跡ではない。
それなのに、
誰一人として、
それを見ていない。
その認識の差は、
決定的だった。
同じ場所にいながら、
別の世界を見ているほどに。