悪役令嬢は世界のバグを修正する
レティシアは、
崩れた壁の前に立つ。
他の者には、
ただの石の断面。
風化し、
削れ、
意味を失った残骸。
だが、
彼女の視界では違う。
無数のルーン。
重なり合う構文。
途切れることなく、
一つの構造を形作っている。
レティシアは、
その一部をじっと見つめる。
特別な場所ではない。
全体の中の、
ほんの一片。
――その瞬間。
ごくわずかに、
光が走る。
一つのルーンが、
淡く発光する。
続いて、
隣の構文。
さらにその先。
連鎖ではない。
波でもない。
ただ、
“反応”。
一瞬だけ。
すぐに消える。
誰も気づかない。
生徒は笑っている。
教師は記録を取っている。
騎士団は周囲を警戒している。
だが、
レティシアだけがそれを見た。
(……今の)
視界の奥で、
小さな表示が浮かぶ。
INPUT DETECTED
一拍も置かず、
消える。
痕跡すら残さない。
レティシアは動かない。
ただ、
その場所を見続ける。
(入力……?)
自分は何もしていない。
触れてもいない。
干渉もしていない。
それなのに、
反応した。
つまり。
これは、
偶然ではない。
(見ただけで……?)
理解が、
一段深くなる。
この構造は、
死んでいない。
完全に停止しているわけでもない。
“待っている”。
入力を。
条件を。
そして今、
その条件の一つとして、
認識された。
レティシアは静かに目を細める。
何も変わらないように見える遺跡。
だがその内側では、
確かに動いた。
わずかに。
確実に。
これはただの構造ではない。
反応するものだ。
――見られている。