悪役令嬢は世界のバグを修正する
遺跡の内部。
崩れた壁の影に、
カイルは立っていた。
周囲では、
生徒たちが思い思いに動いている。
笑い声。
軽い会話。
緊張は薄い。
だが、
カイルは動かない。
視線だけが、
ゆっくりと遺跡をなぞる。
石壁。
床。
空間。
どれも、
見た目は普通だ。
崩れた遺構。
古い構造物。
だが――
何かが引っかかる。
説明できない違和感。
(……おかしい)
視線をわずかに細める。
壁を見る。
何もない。
ただの石だ。
だが、
ほんの一瞬だけ。
“ズレる”。
見えているものと、
感じているものが、
一致しない。
(見えてないだけか?)
直感に近い疑問。
何かがある。
だが、
それが何かは分からない。
触れようとする。
だが、
届かない。
境界がある。
見える者と、
見えない者の。
カイルは小さく息を吐く。
そのまま、
誰にも聞こえない声で呟く。
「……なんだ、この感覚」
言葉にした瞬間、
少しだけ確信に近づく。
これは錯覚ではない。
気のせいでもない。
何かが“ある”。
だが、
まだ掴めない。
(あと少し……か)
無意識にそう思う。
理由は分からない。
だが、
確実に近づいている。
境界に。
その先にあるものへ。
カイルは視線を動かす。
その先にいるのは、
レティシア。
彼女だけが、
動かずに立っている。
そして。
“見ている”。
カイルの目が、
わずかに細くなる。
(……やっぱりか)
理解には至らない。
だが、
確信だけはある。
彼女は、
自分よりも先にいる。
同じ領域の、
さらに奥に。
カイルは何も言わない。
ただ静かに、
その距離を測る。
まだ届かない。
だが――
その入口には、
確実に立っていた。