悪役令嬢は世界のバグを修正する
魔法研究所・観測室。
水晶の光が、
一段強くなる。
流れていたログが、
ゆっくりと収束していく。
一点。
対象へ。
表示が切り替わる。
USER RECOGNITION
PENDING
研究員の誰もが、
言葉を失う。
まだ確定していない。
だが、
そこまで来ている。
主任は動かない。
ただ、
その表示を見つめたまま、
低く言う。
「……もうすぐだな」
それは予測ではない。
確信だった。
遺跡内部。
通路の奥。
レティシアは足を止める。
その先。
空間が変わっている。
壁も、
床も、
天井も。
途切れているようで、
途切れていない。
境界のようなものが、
目の前にある。
だが、
閉じられてはいない。
待っている。
(……通してる……?)
ふと、
そんな感覚が浮かぶ。
拒まれていない。
試されているわけでもない。
ただ、
進むことを前提にされている。
レティシアは、
ゆっくりと一歩踏み出す。
その瞬間。
空間が、
静かに開く。
音はない。
振動もない。
ただ、
“そこにあった境界”が、
自然に解ける。
扉のようで、
扉ではない。
構造そのものが、
道を作る。
後ろで、
誰かが息を呑む。
「……開いた?」
だが、
誰も触れていない。
操作もない。
仕掛けも見えない。
ただ一つ、
明確な事実がある。
レティシアが、
そこに来た。
それだけで、
開いた。
レティシアは振り返らない。
そのまま、
奥へと進む。
表示はない。
だが、
意味ははっきりしている。
これは偶然ではない。
選択でもない。
認識。
そして――
受理。
その先にあるものは、
もう“内部”ではない。
“中枢”だった。