悪役令嬢は世界のバグを修正する
静止していた空間に、
最初の変化が走る。
レティシアが、
一歩踏み出した瞬間だった。
――越えた。
目に見えない境界。
それを、
確かに越えた感覚。
次の瞬間。
床が光る。
円形に広がる回路が、
一斉に発光する。
走る線。
分岐する構造。
すべてが、
同時に起動する。
壁。
重なっていたルーンが、
ゆっくりと回転を始める。
層がずれる。
位置が変わる。
構造そのものが、
再配置されていく。
空気が震える。
低い音。
だが、
機械のようではない。
規則的でもない。
計算。
処理。
“演算音”。
その音が、
空間全体に満ちる。
後ろで、
誰かが叫ぶ。
「なんだこれ――!」
振り返る。
だが。
通路がない。
さっきまであった入口が、
消えている。
壁が閉じている。
完全に。
退路が、
封鎖されていた。
空間は、
もう閉じられている。
外とは切り離された。
その中心で。
レティシアは、
静かに立っている。
すべての変化が、
自分を起点に起きていると、
理解している。
視界に、
表示が浮かぶ。
GUARDIAN
ACTIVATED
一拍。
続けて。
USER AUTH
CHECK
認証。
確認。
レティシアは、
その言葉を読む。
理解する。
だが、
口には出さない。
これは敵ではない。
襲撃でもない。
(……始まった)
その感覚だけが、
はっきりとある。
戦闘ではない。
“判定”だ。