悪役令嬢は世界のバグを修正する
起動した空間の中心。
光が集まる。
床の回路から、
壁のルーンから、
すべての流れが、
一点へ収束する。
その場所。
“核”の前で、
何かが形を取り始める。
最初は、
輪郭だけだった。
曖昧な線。
揺れる境界。
それが、
ゆっくりと人の形に近づいていく。
腕。
脚。
胴体。
だが――
完成しない。
形はある。
だが、
確定していない。
表面が揺れる。
構造が変わる。
一瞬前と、
次の瞬間で、
違う。
ルーンが浮かび、
重なり、
組み替わる。
文字ではない。
だが、
意味を持つ構造。
それが、
体を構成している。
固定されない。
常に書き換わっている。
存在しながら、
確定していない。
生徒の一人が、
息を呑む。
「……なんだ、あれ」
誰も答えない。
見たことがない。
魔物でもない。
人でもない。
魔力の気配も、
薄い。
感じ取れないわけではない。
だが、
“それ”ではない。
騎士の一人が、
低く言う。
「構えろ」
剣が抜かれる。
だが、
その声にも迷いがあった。
相手が何か、
分かっていない。
レティシアは、
その存在を見ている。
彼女の視界では、
さらに明確だった。
形ではない。
流れ。
条件。
分岐。
それが集まり、
仮の形を取っている。
(……違う)
生き物ではない。
意思もない。
これは。
“処理”。
空間の中心で、
それは完全に形を取る。
人型。
だが、
空白のある存在。
完成していないまま、
存在している。
その“顔”が、
レティシアの方を向く。
視線はない。
だが、
確実に“認識”されている。
次の瞬間。
表示が重なる。
GUARDIAN
ACTIVATED
USER AUTH
CHECK
それは、
守るための存在ではない。
排除するためでもない。
ここにあるのは、
ただ一つ。
確認。
目の前に立つそれは、
敵ではなかった。
“判定装置”だった。