悪役令嬢は世界のバグを修正する
同じ場所にいる。
同じ時間を過ごしている。
同じ空間を見ている。
それでも――
見えているものは、
違う。
中庭では、
生徒たちが笑っている。
昨日と同じように。
何も変わらない日常として。
「次の実習さ、また遠出かな」
「いやもう勘弁してくれ」
「でもちょっと面白かっただろ?」
軽い会話。
違和感はない。
誰も気づかない。
空気のわずかな重さにも、
流れの引っかかりにも。
ただ、
普通に過ごしている。
教室に戻れば、
教師が板書を続けている。
説明は滑らか。
言葉も途切れない。
だが――
ほんの一瞬だけ、
手が止まる。
視線が、
宙をなぞる。
何かを探すように。
違和感。
それは確かにある。
だが、
掴めない。
言葉にならない。
「……続けるぞ」
すぐに戻る。
気づかなかったことにする。
理解できないものは、
処理されない。
廊下の端。
カイルが壁にもたれている。
通り過ぎる生徒を見ながら、
視線を細める。
空気が違う。
流れが変だ。
だが、
見えない。
理由が分からない。
それでも、
確信だけはある。
これは、
自然じゃない。
レティシアが、
横を通り過ぎる。
その瞬間、
カイルの視線がわずかに動く。
一拍。
小さく、
呟く。
「……やりすぎだろ」
誰にも聞こえない声。
だが、
確かにそこにある認識。
これは偶然じゃない。
誰かが、
意図的にやっている。
環境を。
空間を。
変えている。
生徒は気づかない。
教師は理解できない。
だが、
完全に見えないわけではない。
境界にいる者だけが、
かすかに感じ取る。
レティシアは歩く。
そのすべてを、
はっきりと認識しながら。
同じ世界にいながら、
別の層を見ている。