悪役令嬢は世界のバグを修正する
授業の合間。
教室の空気は、
ゆるく緩んでいた。
一人の生徒が、
軽く手を上げる。
「ちょっと試していいですか?」
教師が頷く。
簡単な実技。
基礎魔法の確認。
生徒が前に出る。
手をかざし、
短い詠唱。
光が集まる。
魔力が収束する。
発動――
その瞬間。
“遅れる”。
ほんの一瞬。
誰も気づかない程度の、
微細なズレ。
だが、
確実に存在する。
レティシアの視界だけが、
それを捉える。
表示が走る。
PRIORITY SHIFT
順序が変わる。
本来なら、
同時に起きるはずの認識。
それが、
分離する。
レティシアは――
先に見る。
魔法が発動する前に、
その結果を。
光が形を成す前に、
完成した状態を。
一瞬だけ、
未来をなぞる。
そして、
遅れて現実が追いつく。
光が弾け、
魔法が成立する。
教室には、
何も変化はない。
「おお、成功したな」
「今のちょっと遅くなかったか?」
「気のせいだろ」
軽い会話で流れる。
誰も、
違和感を掴まない。
だが、
レティシアは動かない。
ただ、
その瞬間を見ている。
(……今の)
順序。
処理。
優先順位。
すべてが、
一瞬だけ変わった。
そして――
自分が、
その先にいた。
(先に……認識した?)
理解が追いつかない。
だが、
感覚は確かだった。
自分の方が早かった。
世界よりも、
わずかに。
視界の奥で、
表示が消えずに残る。
PRIORITY SHIFT
レティシアは、
静かに息を吐く。
(……変わってる)
ただ見えるだけではない。
感じるだけでもない。
関わっている。
処理に。
順序に。
世界の動きそのものに。
ほんの一瞬。
だが、
確実に。
誰も知らない変化が、
静かに進んでいた。