悪役令嬢は世界のバグを修正する
変化は、
静かに始まった。
誰かが命じたわけでもなく、
大きな告知があったわけでもない。
それでも、
日常の中に“何か”が増えている。
教室。
授業が終わると同時に、
教師が立ち上がる。
「次の教室へは、こちらで誘導する」
いつもなら、
各自で移動する時間だ。
生徒たちは顔を見合わせる。
「え、誘導って……?」
軽い戸惑い。
だが、
強く拒否する理由もない。
廊下に出る。
自然と列ができる。
先頭に教師。
後ろにも、
別の教師。
“挟まれている”。
その事実に、
誰も言葉を与えない。
中庭。
掲示板の前に、
人だかりができている。
新しい通達。
――校外への外出を一時的に制限する。
理由は書かれていない。
期間も曖昧だ。
「外出禁止?」
「マジかよ……」
不満の声が上がる。
だが、
強い反発にはならない。
“仕方ない”という空気が、
先に広がる。
さらにその下。
小さく、
別の項目。
――外出時は許可証の携帯を義務とする。
「許可証って何だよ……」
誰かが呟く。
説明はない。
発行方法も、
申請条件も、
何も書かれていない。
それでも、
決定だけが存在している。
廊下を歩く。
視線が増えている。
教師が、
さりげなく近くにいる。
騎士の配置も、
わずかに増えている。
だが、
誰もそれを問題にしない。
「なんか厳しくなってない?」
ぽつりとした声。
「最近ずっとだな」
「遠征のせい?」
曖昧な理由で、
納得しようとする。
本当の理由は、
誰も知らない。
いや――
知らされていない。
規則は増える。
制限も増える。
だが、
それが“異常”だとは認識されない。
日常の延長として、
静かに受け入れられていく。
気づいたときには、
もう戻れない位置まで、
変化は進んでいた。