悪役令嬢は世界のバグを修正する
それは、
露骨ではない。
だが、
確実に“残る”。
レティシアが誰かと立ち止まる。
ほんの短い会話。
「さっきの課題さ――」
言葉は途中で終わる。
理由は簡単だった。
少し離れた位置に、
神殿の観測員が立っている。
視線は向けていない。
だが、
耳は向いている。
手元の板に、
静かに記録が走る。
接触対象。
開始時刻。
終了時刻。
言葉の内容までは拾わない。
だが、
関係性は残る。
会話は自然に短くなる。
笑いは続かない。
「……あとでな」
それだけで終わる。
関わるほど、
“記録される”。
その認識が、
場の距離を変えていく。
別の時間。
実習場。
レティシアが、
簡単な魔法を組む。
意図だけで発動する、
軽い処理。
その瞬間。
「記録開始」
低い声。
いつの間にか、
すぐ横に観測員がいる。
気配はなかった。
ただ、
必要なタイミングで“配置されている”。
手元の装置が淡く光る。
発動の瞬間。
構成。
出力。
すべてが、
ログとして蓄積される。
「出力安定」
「変動なし」
短い確認。
評価ではない。
ただの記録。
魔法が終わると同時に、
観測員は一歩下がる。
何もなかったかのように、
そこに立つ。
監視しているという印象すら、
残さない。
レティシアの視界に、
薄く表示が重なる。
PERMISSION
ACTIVE
CAST LOG
RECORDED
流れが、
わずかに制限される。
(……触られてる)
直接ではない。
だが、
“自由にさせない”ための調整が入っている。
すべてが、
丁寧すぎる。
強制ではない。
否定もしない。
ただ、
逸脱しないように、
静かに整えていく。
敵意はない。
攻撃もない。
それでも、
確実に分かる。
これは――
管理だ。