悪役令嬢は世界のバグを修正する
変化は、
言葉より先に現れる。
レティシアの周囲に、
わずかな“空白”ができる。
以前なら、
自然に誰かが隣にいた距離。
今は、
半歩分だけ空いている。
意図的ではない。
だが、
誰もその距離を詰めない。
視線は向く。
何か言いたげに、
一瞬だけ迷う。
――けれど、
それ以上は踏み込まない。
「……」
言葉は生まれず、
そのまま消える。
関われば、
見られる。
記録される。
その認識が、
無意識に働いている。
だから、
誰も近づかない。
避けているわけではない。
拒絶でもない。
ただ――
“面倒になる”。
その一点だけで、
距離が維持される。
教室でも同じだった。
席は変わらない。
位置も、
配置も、
何も変わっていない。
だが、
空気が違う。
会話の輪が、
自然と一つ手前で止まる。
名前が出ることも減る。
呼びかける前に、
思考が止まる。
教師は、
必ず近くにいる。
授業中も、
移動中も、
休み時間ですら。
一定の距離を保ちながら、
決して離れない。
だが、
助けることはない。
会話に入ることも、
守ることもない。
ただ、
“そこにいる”。
観測の一部として。
レティシアが歩く。
その周囲に、
自然と空間が生まれる。
人はいる。
声もある。
それでも、
その一帯だけが、
わずかに隔離されている。
孤立ではない。
排除でもない。
もっと曖昧で、
もっと厄介な状態。
関われる。
だが、
関わらない方がいい。
その判断が、
全員の中に共有されている。
レティシアは、
何も言わない。
ただ、
その変化を受け入れている。
拒絶も、
否定も、
しない。
それがどういう状態なのか、
理解しているから。
(……囲われてる)
物理的ではない。
だが確実に、
人間関係ごと、
制御されている。