悪役令嬢は世界のバグを修正する
実習場の空気は、
いつもと変わらない。
軽い雑談。
簡単な課題。
誰もが気を抜いている時間。
レティシアは、
何気なく手を上げる。
意図を組む。
小さな処理。
光を一つ、灯すだけの、
初歩的な魔法。
その瞬間――
「記録開始」
声が割り込む。
同時に、
気配が増える。
左右。
背後。
いつの間にか、
観測員が配置されている。
逃げ道を塞ぐように、
ではない。
ただ、
“必要な位置”に立っている。
手元の装置が起動する。
淡い光が走る。
「出力抑制確認」
「変動なし」
短い報告。
評価ではない。
感情もない。
ただの処理結果。
レティシアの魔法は、
問題なく発動している。
光は安定している。
それでも――
どこか、違う。
流れが、
わずかに引っかかる。
いつもなら、
意図と同時に完了するはずの処理が、
ほんの一瞬、
遅れる。
視界に、
表示が重なる。
PERMISSION
ACTIVE
LOCAL FIELD
LOCKED
空間そのものが、
制限されている。
自分ではない。
外側。
環境が、
干渉している。
(……制御されてる)
魔法が終わる。
光は消える。
だが、
違和感だけが残る。
自由に使えたはずのものが、
今は、
“許可された範囲でしか動かない”。
観測員が一歩下がる。
「記録完了」
それだけ言って、
静かに離れる。
何もなかったかのように。
だが、
確実に変わっている。
これは、
監視ではない。
“制限”。
そして――
権限そのものへの、
干渉。