悪役令嬢は世界のバグを修正する
重くなった空気に、
遅れて言葉が落ちる。
「神殿からの正式な監査だ」
教師の声は、
いつもと変わらない調子だった。
強調もない。
説明も最小限。
それ以上は語らない、
という線引きだけがはっきりしている。
「監査……?」
生徒の誰かが呟く。
疑問はある。
だが、
深く追及する雰囲気はない。
教師は、
それに答えない。
ただ、
視線を巡らせるだけ。
その目は、
生徒ではなく、
空間を確認している。
問題がないか。
逸脱が起きていないか。
それを確かめるように。
授業は続く。
規則は増え、
動きは制限される。
それでも、
教師たちは止めない。
異議を唱えない。
むしろ、
協力している。
移動の誘導。
記録の補助。
監視の維持。
すべてが、
自然な流れとして行われている。
逆らう様子はない。
抵抗も見えない。
完全に、
従っているように見える。
だが、
どこか違う。
言葉は少ない。
説明もしない。
ただ、
必要なことだけを実行する。
余計な関与はしない。
“協力している”。
だが、
“同意している”わけではない。
その微妙な距離が、
空気の中に残っている。
生徒たちは気づかない。
だが、
確かにそこにある。
従っている。
ように見えるだけで――
その内側までは、
誰にも分からない。