悪役令嬢は世界のバグを修正する
廊下の端。
人の流れから、
半歩だけ外れた位置。
カイルは、
壁にもたれたまま動かない。
視線だけが、
静かに動いている。
騎士の配置。
等間隔ではない。
死角を埋めるように、
微妙にずれている。
視界の重なり。
逃がさない位置取り。
ただの警備じゃない。
“囲い”だ。
教師の動きも同じだ。
誘導は自然。
だが、
選択肢は潰されている。
偶然に見せかけて、
導線が固定されている。
神殿の観測員。
現れるタイミングが正確すぎる。
必要な瞬間にだけ現れて、
終われば消える。
待機しているんじゃない。
“配置されている”。
視線が、
ひとつの点に集まる。
レティシア。
彼女の周囲だけ、
空気の流れが違う。
距離がある。
間がある。
人がいるのに、
空白ができている。
カイルは、
ゆっくりと息を吐く。
(動きが早いな)
想定よりも、
一段階上。
観測だけじゃない。
制御に入ってる。
視線が細くなる。
(……囲いに来てる)
排除じゃない。
攻撃でもない。
閉じる。
逃げ場を減らして、
外へ出さない。
目的は明確だ。
“管理”。
カイルは、
わずかに視線を上げる。
空間の歪み。
見えない流れ。
完全には見えない。
だが、
“パターン”は読める。
繰り返し。
配置。
反応。
(あいつ……)
レティシアを見る。
(中心に置かれてるな)
理由は分からない。
仕組みも、
完全には掴めない。
だが――
構造は理解できる。
囲まれている。
そして、
その中心にいる。
カイルの口元が、
わずかに歪む。
(面倒なことになってきたな)
軽い言葉。
だが、
視線は真剣だった。
理解している。
これは偶然じゃない。
意図的に組まれたものだと。
完全には見えない。
だが、
見えている側に、
足をかけている。
それが、
カイルの立ち位置だった。