悪役令嬢は世界のバグを修正する
揺らぎは、
消えなかった。
むしろ、
ほんのわずかに“残り続けている”。
中庭の結界は、
いつも通りに光っている。
誰も疑わない。
安定していると、
信じている。
その前提が――
崩れる。
音はなかった。
破裂も、
衝撃もない。
ただ、
“ずれた”。
結界の一部が、
ほんのわずかに位置を外す。
継ぎ目のないはずの膜に、
見えない“継ぎ目”が生まれる。
次の瞬間。
――逆流。
内部を巡っていた魔力が、
一方向に引き戻される。
本来の流れを無視して、
一点へ収束する。
「……え?」
誰かの声が、
遅れて漏れる。
光が歪む。
結界の輪郭が、
わずかに揺らぐ。
波紋のように広がり――
止まらない。
教師が顔を上げる。
「結界、維持――」
言葉は最後まで続かない。
“維持できていない”。
それを、
視覚が先に理解する。
結界の一部が、
ゆっくりと“解ける”。
壊れるのではない。
繋がりが外れる。
そして、
空いた。
そこから、
魔力が溢れる。
外へではない。
内側へ。
逆流した流れが、
空間を押し曲げる。
空気が歪む。
視界が揺れる。
距離感が崩れる。
「何これ……!」
生徒たちが後ずさる。
逃げようとするが、
方向が定まらない。
空間そのものが、
正しく認識できない。
それでも、
外部からの攻撃には見えない。
衝撃はない。
侵入もない。
すべてが、
内側から崩れている。
教師が結界を再構築しようとする。
だが、
展開が噛み合わない。
術式が滑る。
定義が一致しない。
まるで、
基盤そのものがズレているように。
レティシアの視界に、
表示が走る。
LOCAL FIELD
CRITICAL
FLOW
REVERSAL
歪みが、
さらに深くなる。
まだ、
完全には壊れていない。
だが、
確実に“崩壊の方向”へ進んでいる。
それでも――
誰も、
原因を見ていない。
これは攻撃ではない。
侵入でもない。
ただの“事故”。
そうとしか、
認識できない形で起きている。
だからこそ、
遅れる。
対応も、
判断も、
すべてが。