悪役令嬢は世界のバグを修正する
歪みは、
止まらなかった。
広がるでもなく、
収束するでもなく、
ただ、
“崩れ続けている”。
「止まらない!」
誰かが叫ぶ。
声は上ずり、
状況の理解より先に、
恐怖だけが滲む。
「何これ!?」
別の声。
だが、
答えはどこにもない。
空間が揺れる。
足元の感覚が、
わずかにずれる。
立っているはずの位置が、
ほんの一瞬、
別の場所に重なる。
生徒たちが、
互いに距離を取ろうとする。
だが、
距離が正しく測れない。
近づいているのか、
離れているのか、
それすら曖昧になる。
教師が前に出る。
表情は崩れていない。
だが、
動きが速い。
「展開維持!」
即座の指示。
複数の教師が同時に術式を組む。
結界の補強。
流れの再固定。
だが――
噛み合わない。
術式が成立する直前で、
わずかに“ずれる”。
完成しない。
「結界を再構築しろ!」
声が強くなる。
命令は正しい。
対応も間違っていない。
それでも、
結果が出ない。
展開したはずの結界が、
その場で崩れる。
固定したはずの流れが、
逆流に引き戻される。
まるで、
“正しい処理が通らない”。
そんな状態。
生徒の一人が、
足を滑らせる。
転ぶ。
だが、
地面に触れる直前で、
位置がわずかにずれる。
衝撃が遅れる。
「――っ」
声にならない息。
空間が、
正しく繋がっていない。
教師が、
強引に魔力を流し込む。
出力を上げる。
押し切ろうとする。
だが、
逆に歪みが強くなる。
流れが暴れる。
制御不能に近づく。
誰も間違っていない。
それでも、
何も止まらない。
時間だけが、
ずれていく。
一瞬が、
長くなる。
対応が、
間に合わない。
原因が見えないまま、
状況だけが悪化していく。
そして――
誰も、
それを“止められない”。