悪役令嬢は世界のバグを修正する
静寂は、
一瞬だけだった。
そのあとに来るのは、
ざわめき。
小さく、
押し殺された声。
「え……?」
戸惑い。
理解が追いつかないまま、
言葉だけが漏れる。
「やっぱりあいつ……?」
誰かが、
確かめるように呟く。
断定ではない。
だが、
疑いの方向は決まっている。
視線が集まる。
一斉ではない。
自然に、
少しずつ、
だが確実に――
レティシアへ。
教師たちは、
何も言わない。
否定しない。
補足もしない。
ただ、
沈黙を維持する。
それが、
何より強い肯定になる。
反論がない。
訂正もない。
ならば、
正しいのだと。
そう処理される。
騎士たちの動きが変わる。
一歩、
距離を詰める。
配置が再調整される。
さりげなく、
だが明確に。
警戒レベルが上がる。
包囲が、
一段階締まる。
空気が変わる。
目に見えない何かが、
その場に固定される。
疑い。
警戒。
距離。
それらが、
一つの方向に揃う。
誰も命じていない。
誰も合図をしていない。
それでも――
全員が、
同じ認識を共有する。
レティシアが立っている。
何もしていない。
それでも、
周囲との距離が広がる。
空白が、
さらに大きくなる。
声をかける者はいない。
近づく者もいない。
ただ、
見ている。
その視線の意味は、
言葉にしなくても分かる。
原因。
危険。
対象。
空気が、
それを決める。
そして一度決まったものは、
簡単には覆らない。
レティシアは、
その中心に立っている。
何も変わらないまま――
すべてが変わった場所で。