悪役令嬢は世界のバグを修正する
歪みは、
まだ完全には収束していない。
空間の揺らぎが、
不規則に脈打っている。
その中心で――
観測員が、
一歩前に出る。
装置の光が、
静かに強まる。
「解析完了」
短い宣言。
間を置かない。
本来なら、
まだ早い。
だが、
誰もそれを指摘しない。
「権限干渉によるフィールド不安定化を確認」
言葉が並ぶ。
専門用語。
抽象的で、
だが否定しづらい定義。
教師がわずかに眉を動かす。
だが、
口は開かない。
「対象の影響と判断」
静かな結論。
断定ではない。
だが、
否定の余地も残さない。
“判断”。
その言葉が、
すべてを固定する。
周囲に沈黙が落ちる。
誰も、
すぐには理解できない。
だが――
“理解した気になる”。
専門的すぎて、
逆らえない。
論理的に聞こえて、
疑えない。
視線が動く。
自然に、
一点へと集まる。
レティシア。
誰も責めない。
声を荒げる者もいない。
それでも、
認識は変わる。
原因は、
そこにある。
そう、
処理される。
レティシアは、
何も言わない。
反論もしない。
言葉では覆せないと、
分かっているから。
(……作られてる)
内側で、
静かに理解する。
結論ではない。
流れだ。
先に決められた形に、
状況が合わせられている。
観測員が、
わずかに装置を下ろす。
処理は終わったという仕草。
だが、
本当に終わったのは――
“判断”の方だった。