悪役令嬢は世界のバグを修正する
混乱は、まだ収まっていない。
歪んだ空間の余波が、
遅れて揺れ続けている。
その中で――
カイルは、動かない。
誰かを助けに行くでもなく、
前に出るでもなく、
ただ、
その場に立っている。
視線だけが、
静かに巡っていた。
崩れた結界。
再構築に失敗する教師。
的確すぎる神殿の介入。
すべてが、
繋がっている。
(タイミングが合いすぎてる)
小さく、
内側で呟く。
事故にしては早すぎる。
対応にしては正確すぎる。
偶然で重なるには、
出来すぎている。
視線が、
レティシアへ向く。
中心にいる。
歪みの核。
観測の焦点。
だが――
(偶然じゃない)
確信に近い形で、
思考が固まる。
原因がそこにあるんじゃない。
そこに“合わせられている”。
カイルの目が、
わずかに細まる。
観測員の動き。
報告の順序。
結論の出し方。
全部が、
一直線に繋がっている。
(……仕込んでるな)
声には出さない。
だが、
理解する。
事故じゃない。
エラーでもない。
“作られた現象”。
誰が、とはまだ断定できない。
だが、
方向は見えている。
神殿。
あの介入の速さ。
あの断定。
準備されていた動き。
偶然では成立しない。
カイルは、
ゆっくりと息を吐く。
状況は悪い。
しかも、
静かに悪い。
(面倒どころじゃねぇな)
軽く思う。
だが、
その目は笑っていない。
見えてしまっている。
構造が。
流れが。
意図が。
完全ではない。
だが、
十分すぎる。
この中で、
それに気づいているのは――
おそらく、
自分だけだと。