悪役令嬢は世界のバグを修正する
歪みは、
やがて収まった。
完全ではない。
だが、
崩壊は止まり、
結界はかろうじて形を取り戻す。
揺れていた空間が、
ゆっくりと現実へと戻っていく。
誰かが息を吐く。
張り詰めていた緊張が、
遅れてほどける。
「……収まったのか?」
不安混じりの声。
だが、
完全な安堵はない。
残っている。
違和感が。
生徒たちは、
距離を取りながら集まる。
小声で話す。
視線は、
自然に一方向へ流れる。
レティシア。
彼女は、
その場に立っている。
動いていない。
何もしていない。
それでも――
空気が違う。
さっきまでと同じ場所なのに、
そこだけ、
別の意味を持っている。
教師たちは、
状況の確認を続けている。
だが、
誰も彼女に近づかない。
声をかけない。
騎士は、
位置を維持したまま動かない。
だが、
わずかに間合いが詰まっている。
観測員は、
再び装置を構えている。
記録は続いている。
すべてが、
終わっていない。
形だけが収束し、
意味だけが残る。
レティシアの視界に、
新たな表示が浮かぶ。
PERMISSION
FLAGGED
淡く、
だがはっきりと。
印が付けられる。
識別。
分類。
(……)
彼女は、
それを見つめる。
何もしていない。
だが、
結果だけが残る。
周囲の空気は、
すでに決まっている。
疑いは、
消えない。
むしろ、
固定される。
理由は必要ない。
一度成立した“認識”は、
それだけで十分だから。
レティシアは、
ゆっくりと息を吐く。
抵抗しない。
否定もしない。
分かっている。
これは――
始まりだと。
(……始まった)
静かに、
内側で確定する。
見えない形で、
状況は一段階進んだ。
もう、
元には戻らない。