悪役令嬢は世界のバグを修正する
学園外周に並ぶ騎士たちは、
表面上は整然としていた。
鎧は磨かれ、
隊列は乱れず、
命令への応答も正確だ。
誰が見ても、
訓練された組織にしか見えない。
だがその内側では、
すでに亀裂が走っていた。
正門脇の詰所。
即応班の待機所では、
数名の騎士が低い声で言葉を交わしている。
「対象は異端指定だ」
神殿派の騎士が言った。
年若いが眼差しは硬い。
「命令が出た以上、拘束すべきだろう」
「遅れれば被害が出る」
その言葉に、
向かいの騎士が眉をひそめる。
「被害?」
「学生一人を包囲して、何の被害を想定してる」
中立派の騎士だった。
神殿への反感があるわけではない。
ただ、
現場感覚として納得していない。
「証拠も薄い」
「事故関連も推定止まりだ」
「それで学園ごと封鎖か?」
神殿派の騎士は即座に返す。
「推定で十分だ」
「異端が確定してからでは遅い」
「異端、異端って便利な言葉だな」
空気が冷える。
互いに手はかけない。
だが、
剣を抜く一歩手前の緊張があった。
別の場所――中庭外縁の巡回線。
年嵩の騎士が、
若い部下へ声を落とす。
「余計な顔をするな」
「命令は命令だ」
部下は視線だけで周囲を確かめ、
小さく返した。
「……だがこれは討伐準備に見える」
その一言に、
上官はすぐ答えなかった。
正門封鎖。
結界強化。
転移阻害。
配置された制圧班。
学生一人への対応としては、
明らかに過剰だった。
「見えるな」
やがて上官が低く言う。
「だからこそ、口にするな」
部下は唇を結んだ。
校舎の裏手では、
別働隊の隊長が部下たちへ指示を飛ばしていた。
「対象が抵抗した場合、包囲を維持」
「無力化は神殿監査官の許可後だ」
その言葉に、
一人の騎士がわずかに顔をしかめる。
無力化。
保護拘束の場で使う言葉ではない。
誰もが気づき始めていた。
建前と実態がずれている。
騎士団は本来、
民を守るための剣だ。
秩序を守るための盾だ。
だが今、
その剣先は学園の内側へ向いている。
神殿派は、
理念のために命令へ従う。
中立派は、
秩序のために疑問を抱く。
同じ鎧を着ながら、
守ろうとしているものが違っていた。
そして組織は、
それが最も危うい状態に入っている。
外から見れば一枚岩。
中から見れば、
いつ割れてもおかしくない薄氷だった。