悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜空を覆う白い制御層が、
わずかに揺らいだ。
礼堂跡地では誰も動かない。
騎士たちも、
教師たちも、
生徒たちも、
ただ立ち尽くしていた。
剣を抜けない聖騎士。
息を乱しながらも視線を逸らさない少女。
地下で真実へ辿り着いた研究者たち。
屋上で構造を読み切った男。
それぞれ別の場所にいながら、
同じ結論へ辿り着いていた。
管理ではない。
保護でもない。
秩序だけでもない。
これは、
世界へ被せられた制限だった。
白い層の深部に、
レティシアの視界だけが文字列を捉える。
SYSTEM CONTROL
EXPOSED
隠されていた制御構造。
その存在が、
ついに露わになった。
遠くで結界柱が軋む。
均一化された風に、
初めて不規則な揺らぎが混じる。
木々の葉がざわめき、
止められていた夜の音が少しずつ戻ってくる。
それは小さな乱れだった。
だが同時に、
閉じられた世界へ入った最初の亀裂でもあった。
ルシアンは空を見上げたまま、
何も言わない。
カイルは薄く笑い、
次の一手を考えている。
主任は地下で新たな解析指示を飛ばし、
研究員たちは震える手で記録を続ける。
レティシアだけが静かに目を閉じた。
ようやく、
敵の名前が見えたからだ。
そして誰もまだ知らない。
この夜暴かれた真実が、
神殿そのものを揺るがす序章にすぎないことを。
世界は守られていた。
だがそれは、閉じ込められていたという意味でもあった。