悪役令嬢は世界のバグを修正する
地下研究所、礼堂跡地、屋上通路――
それぞれ別の場所で、
同じ真実が言葉になっていく。
主任は投影陣の白い制御層を見つめたまま、
静かに告げた。
「神殿は神の代弁者じゃない」
誰も口を挟めない。
長く信じられてきた象徴を、
その一言が切り裂いたからだ。
主任は続ける。
「“制限装置の運用者”だ」
祈りを受ける者ではない。
導く者でもない。
ただ、
世界に取り付けられた枷を管理し、
締める者たち。
その定義に、
研究員たちは息を失った。
屋上通路で、
カイルは均された学園を見下ろしていた。
灯りの揺れまで揃い、
足音の間隔まで整えられた景色。
人の営みから偶然だけを抜き取ったような夜だった。
鼻で笑うように、
彼は呟く。
「だからあいつらは“増やさない”んだな」
視線の先には、
礼堂跡地でなお立つレティシア。
規格から外れた少女。
神殿が最も嫌う存在。
カイルは目を細める。
「同じ奴を」
一人いれば証明になる。
二人いれば現象になる。
三人いれば時代が変わる。
だから芽のうちに摘む。
そう理解した声だった。
礼堂跡地。
レティシアは空を覆う白い制御層を見上げる。
押さえつけられ、
均され、
静かにされていく世界。
誰もが、
この閉塞を自然だと思わされてきた。
彼女は首を横に振る。
「閉じてるんじゃない」
かすれた声が、
静寂に落ちる。
「閉じさせてる」
その言葉は、
夜そのものを告発していた。
世界は最初から狭かったのではない。
誰かが狭め続けていただけだと。
その正面で、
ルシアンは剣の柄を握ったまま動けずにいた。
信じてきた秩序。
従ってきた正義。
守ってきたはずの世界。
その全てが、
今や別の意味を持ち始めている。
彼の声は、
初めて揺れていた。
「……それが、秩序だと……?」
問いかけた相手は誰でもない。
神殿か。
自分自身か。
それとも、
今まで疑わず従ってきた過去か。
返事はない。
ただ白い制御層だけが、
冷たく脈打っていた。