悪役令嬢は世界のバグを修正する
白い格子が、
礼堂跡地の空を埋め尽くしていた。
風は止み、
音は遠のき、
世界そのものが重く沈んでいる。
その中心で、
レティシアの膝が崩れた。
石畳へ片膝をつく。
乾いた音が、
やけに大きく響いた。
肩で息をするたび、
胸の奥まで圧力が入り込んでくる。
腕を上げるだけで重い。
指先を動かすだけで、
見えない鎖に引き戻されるようだった。
身体に重力が増したのではない。
存在そのものへ、
下へ沈める命令が下されている。
そんな感覚だった。
視界の端に文字列が乱れる。
いつもなら静かに並ぶはずの表示が、
白いノイズに侵されて崩れていく。
PERMISSION
……ISSION
PER……
NODE ERROR
PRIORITY LOW
文字が途切れ、
重なり、
読み取れないまま消えていく。
世界へ触れるための窓口が、
外側から押し潰されていた。
レティシアは唇を噛む。
呼吸を整えようとしても、
思考まで鈍くなる。
立たなければ。
逃げなければ。
何かしなければ。
そう考えるたび、
その意志だけが薄れていく。
礼堂跡地の外周では、
生徒たちが声もなく見守っていた。
誰かが小さく呟く。
「……終わった」
別の生徒は視線を逸らす。
教師の一人は拳を握りしめながら、
それでも動けない。
この空間では、
逆らうという選択そのものが遠かった。
騎士たちは静かに包囲を狭める。
監査官の表情には焦りがない。
すでに勝負は決したと、
そう信じている顔だった。
「対象、行動不能を確認」
「拘束準備へ移行します」
冷たい報告が交わされる。
誰も反論しない。
誰も彼女がここから立ち上がれるとは思っていなかった。
レティシアは俯いたまま、
震える手を石畳につく。
指先に伝わるのは、
冷えた石の感触だけ。
視界にはなお、
崩れかけた文字列が明滅していた。
ERROR
PRIORITY LOW
ACCESS DENIED
けれどその奥で、
誰にも見えない深い場所に、
まだ消えていない何かが、
微かに脈打っていた。