悪役令嬢は世界のバグを修正する
膝をついたまま、
レティシアは荒い息を繰り返していた。
白い格子はなお脈動し、
礼堂跡地のすべてを押さえつけている。
騎士の足音。
監査官の命令。
遠くで息を呑む生徒たち。
そのすべてが、
厚い膜を隔てた向こう側の音のように遠かった。
視界には乱れた文字列が点滅している。
ERROR
PRIORITY LOW
ACCESS DENIED
崩れた表示は、
何度も立ち上がろうとしては押し潰される。
普通なら、
ここで終わっていた。
神殿の制御は完成している。
誰も逆らえない。
誰も抜け出せない。
だがレティシアは、
そこで目を閉じた。
外側を見るのをやめる。
白い格子も、
包囲する騎士も、
恐怖に凍る視線も、
すべて意識の外へ押しやった。
もっと深く。
もっと下へ。
もっと静かな場所へ。
すると、
見え方が変わる。
白い制御線の海の下に、
別の流れがあった。
細い線。
かすかな光。
石畳の隙間、
地脈の奥、
空気の粒子の間を縫うように走る無数の経路。
自然に生まれ、
自然に巡り、
誰の命令も受けずに続いてきた本来の流れ。
神殿の制御層は、
その上から覆いかぶさっているだけだった。
太い線で塞ぎ、
優先権を奪い、
本来の道を見えなくしているだけ。
消してはいない。
断ってもいない。
下でまだ、
細い光は生きている。
レティシアの呼吸が止まる。
理解が、
一つの形になる。
(止められてるんじゃない)
指先に触れる石畳の奥で、
細い線が脈打つ。
(上に被せられてるだけ)
それは拘束ではない。
封印でもない。
世界そのものが拒絶しているのでもない。
ただ、
誰かが上から蓋をしているだけだ。
ならば。
蓋の下にあるものへ届けばいい。
本来の流れに触れればいい。
視界のノイズが一瞬だけ晴れる。
崩れていた文字列の奥に、
新しい表示が静かに浮かび上がった。
ROOT PATH
DETECTED
NATURAL ROUTE
ACTIVE
レティシアはゆっくり顔を上げる。
頬には汗が伝い、
膝はまだ石畳についたまま。
それでも瞳だけは、
先ほどまでとまるで違っていた。
追い詰められた者の目ではない。
出口を見つけた者の目だった。