悪役令嬢は世界のバグを修正する
全員の視線を受けながら、
レティシアはゆっくりと口を開いた。
声は静かだった。
だが不思議と、
円卓の端までまっすぐ届く。
「物価が上がっている原因は……」
一拍。
「供給不足ではありません」
ざわめきが走る。
否定から入る言い方。
しかも今、報告されたばかりの前提を、
いきなり崩した。
財務長官が眉を寄せる。
「……何を根拠に」
レティシアはそちらを見ずに続けた。
「地方の収穫量は、平年並みです」
その言葉に、
今度は別の方向から声が上がる。
「そんなはずは――」
「数字があります」
遮るように、
カイルが口を挟んだ。
机の上に、
数枚の資料を滑らせる。
「北部から西部まで、主要農地の収穫率」
「最低で九八%、最高で一〇二%」
「不作どころか、むしろ安定してる」
紙の上の数字が、
現実を突きつける。
レティシアは続けた。
「輸送量も減っていません」
今度は商務官が反応する。
「それは……」
カイルがすぐに補足する。
「主要街道の通過量、前年比一一三%」
「むしろ増えてる」
ざわめきが大きくなる。
増えている。
収穫も。
輸送も。
それなのに、
市場には出てこない。
レティシアは円卓を見渡した。
「それでも市場の供給は減っています」
静かに、
だが確実に。
「つまり――」
言葉を切る。
全員がその続きを待つ。
彼女の視界に、
複数の流れが重なって見えていた。
畑から都市へ。
輸送路から倉庫へ。
本来ならそのまま市場へ流れるはずの線が、
途中で歪んでいる。
流れはある。
消えてはいない。
ただ、
先へ進んでいない。
「消えているんじゃない」
レティシアは言った。
「止められています」
その一言で、
円卓の空気が変わった。
問題は“不足”ではない。
“意図的な停止”だと、
言い切ったのだから。