悪役令嬢は世界のバグを修正する
ざわめきはすぐには収まらなかった。
収穫はある。
輸送もある。
それでも市場に出ない。
その矛盾だけで、
円卓の空気はすでに不安定になっている。
レティシアの視界に、
さらに深い層が浮かび上がる。
RESOURCE FLOW
DIVERTED
流れは途中で分岐している。
本来の経路から外され、
別の場所へ集められている。
彼女はゆっくりと、
円卓の一点を見た。
「中継地点で止まっています」
その言葉に、
数人の貴族が同時に眉を動かした。
「中継……?」
商務官が小さく呟く。
レティシアは続ける。
「都市に入る前の倉庫」
「そこで流れが止められています」
空気が一段、冷えた。
それは、
誰もが知っている場所だった。
だが、
触れないようにしてきた場所でもある。
彼女は一切ためらわず、
言葉を重ねる。
「貴族管理の倉庫です」
その瞬間、
会議室が揺れた。
ざわめきが一気に広がる。
「何を言っている!」
「証拠はあるのか!」
「軽々しく口にするな!」
怒声に近い声も混ざる。
円卓の右列、
いくつかの席で動揺が走る。
杯を持つ手が止まり、
扇子が閉じられ、
椅子がわずかに軋む。
カイルはその様子を見て、
口の端をわずかに上げた。
「図星か」
小さく呟く。
主任は何も言わない。
だが視線だけで、
“ここからが本番だ”と告げていた。
財務長官は額に手を当て、
商務官は資料をめくる手を止めた。
知らなかったわけではない。
だが今、
それが“原因”として明確に提示された。
それが問題だった。
レティシアはざわめきの中で、
ただ静かに座っている。
誰かを糾弾するためではない。
見えているものを、
そのまま言っているだけだ。
だがその言葉は、
この場にいる多くの人間の利権へ、
まっすぐに触れていた。
ざわめきは収まらない。
むしろ、
次の衝突を呼び込むように膨れ上がっていく。
円卓の上で、
ついに“名前のある敵”が提示された。