悪役令嬢は世界のバグを修正する
提案が出揃ったあと、
円卓の上には、
奇妙な静けさが落ちた。
誰もすぐには口を開かない。
否定はできる。
だが、
“間違っている”とは言い切れない。
その均衡を、
ゆっくりと崩したのは――
右列の中心に座る、
灰銀の髪の有力貴族だった。
彼は指を組んだまま、
わずかに顎を引く。
そして、
低く言った。
「……それは」
一拍。
「我々の権限を削ぐ話だな」
静かな声だった。
だがその一言で、
会議室の空気が決定的に変わる。
建前が消えた。
秩序でも、
自然でも、
安全でもない。
問題の核心が、
むき出しになる。
これは――
利益の話だ。
誰が持つか。
誰が握るか。
その線を巡る争いだ。
円卓の各席で、
姿勢がわずかに変わる。
擁護する者。
様子を見る者。
沈黙する者。
だが全員が理解している。
ここから先は、
意見の違いではない。
利害の衝突だ。
レティシアは、
その言葉を正面から受けた。
逃げない。
誤魔化さない。
そして――
「はい」
即答だった。
一切の迷いもない。
その一言が、
最後の均衡を壊す。
沈黙。
今度の沈黙は、
先ほどまでのものとは違う。
引き返せない沈黙。
誰もが、
同じ事実を理解している。
もう、
折り合いはつかない。
この場でぶつかっているのは、
正しさではなく、
守るものそのものだ。
円卓の上で、
見えない線が引かれる。
王家。
貴族。
官僚。
そして、
レティシアたち。
それぞれの立場が、
明確に分かれ始める。
この瞬間、
議論は終わり、戦いが始まった。