悪役令嬢は世界のバグを修正する
ざわめきの余熱が残る中で、
レティシアは一歩も引かなかった。
怒声も、
視線も、
すべてを通り過ぎるもののように受け流し、
ただ必要な言葉だけを選ぶ。
「……仕組みを、戻します」
短く、
だがはっきりと。
円卓の空気がわずかに静まる。
“戻す”という言葉に、
何人かが反応した。
壊すのではない。
作り替えるのでもない。
戻す。
本来の流れへ。
レティシアは続ける。
「中継許可制を撤廃します」
即座に反応が出る。
「なっ――」
「それでは統制が――」
だが彼女は止まらない。
「倉庫の保有に上限を設けます」
さらに空気が荒れる。
「独占ができないようにするためです」
明確だった。
逃げ道のない言い方。
「地方から市場への直通流通路を開設します」
今度は商務官が息を呑む。
「中継を通さず、直接届くようにします」
つまり、
今ある仕組みを飛ばす。
それが何を意味するか、
この場にいる全員が理解していた。
レティシアは最後に、
最も深い部分へ触れる。
「魔導資源を再分配します」
軍務卿の目が細くなる。
「生産が止まっている地域へ回します」
それは単なる流通の話ではない。
権力の話だった。
誰が持ち、
誰が使うか。
その線を引き直す提案だった。
円卓が揺れる。
反発。
計算。
怒り。
様々な感情が一斉に動く。
だが、
レティシアは静かに締めくくる。
「流れを戻せば――」
一拍。
「勝手に回ります」
その言葉は、
驚くほど簡潔だった。
複雑な制度も、
高度な制御もいらない。
止めているものを外せばいい。
それだけで、
世界は本来の動きを取り戻す。
視界の奥に、
淡い表示が浮かぶ。
SYSTEM STATE
BLOCKED
SOLUTION
RELEASE
制御ではない。
解放。
円卓の上に提示されたのは、
国を“締める”案ではなく、
“開く”案だった。
だからこそ――
それは最も危険な提案だった。