悪役令嬢は世界のバグを修正する
「――じゃあ聞くけどさ」
静まりかけた空気に、
別の声が割り込んだ。
低い。
だが遠慮がない。
カイルだった。
円卓の端、
補佐席から身を乗り出す。
片手に持っていた資料束を、
ためらいなく卓上へ叩きつけた。
乾いた音が響く。
「今の話が“自然”って言うならさ」
彼は貴族たちを順に見回す。
遠慮も敬意もない視線。
「これ、どう説明すんの?」
指先で資料を弾く。
「倉庫保管率――九〇%超」
空気がわずかに揺れる。
「市場流通量――前年比マイナス三〇%」
財務長官が顔を上げる。
「保管料――この半年でほぼ倍」
紙の上の数字が、
一つずつ現実を突きつける。
カイルは肩をすくめた。
「物はある」
「でも出てこない」
一拍。
「それで“自然に調整されてる”って?」
彼の口元が歪む。
笑ってはいない。
「これが自然に見えるなら――」
視線が、
灰銀の貴族へ向く。
「頭どうかしてるぞ」
完全な沈黙。
次の瞬間、
会議室が揺れた。
「無礼者!」
「口を慎め!」
「誰に向かって――」
怒声が一斉に上がる。
だが、
それ以上に広がったのは、
ざわめきだった。
数字は否定しづらい。
感情では押し返せない。
貴族たちの間に、
わずかな動揺が走る。
“自然”という言葉が、
一瞬で薄くなる。
カイルは腕を組み、
椅子へもたれかかった。
「で?」
軽く顎を上げる。
「まだ“自然”って言うか?」
誰もすぐには答えない。
円卓の上で、
空気の主導権が、
確かに一度――
揺れた。