悪役令嬢は世界のバグを修正する
揺れ始めた空気に、
最後の一手が差し込まれる。
それは、
最も古く、
最も確実な方法だった。
円卓の奥――
長く沈黙していた老貴族が、
ゆっくりと口を開く。
「……議論は理解した」
低く、
乾いた声。
だがその声音には、
これまでの誰よりも強い確信があった。
彼は視線を上げ、
まっすぐにレティシアを見る。
「だが――」
一拍。
「神殿案件の少女に、国政を触らせるな」
静かだった。
だがその一言で、
すべての流れが止まる。
内容ではない。
“誰が言ったか”。
その一点に、
議論が引き戻される。
ざわめきが広がる。
「……確かに」
誰かが小さく呟く。
別の貴族が頷く。
「神殿を揺るがした存在だ」
「管理外の力を持つ」
言葉が重なる。
危険。
外部。
異端。
それらが、
一つの“像”として形を取り始める。
レティシアという存在が、
意味を持ち替えられていく。
提案者ではない。
“問題そのもの”へ。
老貴族は続ける。
「どれほど理屈が整っていようと」
ゆっくりと指を組む。
「それを語る者が信用に足らぬなら、話にならぬ」
円卓に、
重たい同意が落ちる。
正しさではない。
信用。
安全。
それを基準にするなら、
彼女の立場は脆い。
神殿との衝突。
未知の力。
制御外。
それだけで十分だった。
王の側近がわずかに視線を交わす。
財務長官が口を閉ざす。
軍務卿も何も言わない。
反論できないわけではない。
だが――
“守れない”。
この場で彼女を庇うことは、
同じ位置に立つことを意味する。
レティシアは、
ただ静かにその言葉を受けていた。
視界の奥に、
冷たい表示が浮かぶ。
TARGET REDEFINED
RISK ENTITY
ARGUMENT STATUS
INVALIDATED
内容は消えていない。
だが、
届かなくなった。
カイルが歯を食いしばる。
「……クソが」
これで、
枠が完成する。
危険人物。
外部要因。
異端。
その枠の中に入れられた時点で、
何を言っても同じ意味に変換される。
円卓の上で、
見えない檻が閉じる。
議論はまだ続いている。
だが実質的には――
彼女は、
排除された。