悪役令嬢は世界のバグを修正する
円卓は再び静まり返っていた。
だがそれは、
議論が収束した静けさではない。
行き場を失ったまま、
張りついた沈黙。
誰もが、
次の一手を待っている。
視線は自然と、
最上座へ集まる。
決めるべき者は、
一人しかいない。
若き王は、
何も言わなかった。
ただ、
静かに座っている。
指先を軽く組み、
肘掛けに預けたまま、
円卓全体を見渡す。
その目は、
すでに理解していた。
レティシアの言葉。
カイルの数字。
どちらも正しい。
構造は詰まっている。
流れは止められている。
それを外せば、
国は回る。
理屈としては、
何一つ間違っていない。
――だが。
王の視線が、
ゆっくりと動く。
右列。
有力貴族たち。
その表情は硬い。
譲る気はない。
いや、
守る気だ。
次に、
外縁の席へ。
地方代表たち。
揺れている。
納得しかけているが、
同時に警戒している。
一歩踏み出せば、
離れる。
さらに、
軍務卿。
無言。
だが、
その沈黙は重い。
兵站は不安定。
士気は低下。
この状態で、
内部の対立を深めれば――
崩れる。
王の内側で、
静かに計算が進む。
(正しい……)
その結論は、
すでに出ている。
(だが――)
ほんのわずかに、
指先に力が入る。
(押せば、割れる)
王国が。
均衡が。
そして――
“今、保っている形”が。
レティシアの提案は、
未来を救うかもしれない。
だが同時に、
今を壊す。
その可能性が、
はっきりと見えている。
沈黙は、
決断ではない。
保留でもない。
“動けない”という選択だった。
円卓の上で、
王だけが理解している。
正しさと現実が、
一致しない瞬間を。