悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都の通りは、
いつもと同じように人で満ちていた。
店が開き、
客が行き交い、
声が交差する。
だが――
その“流れ”の中に、
異物が混ざっている。
レティシアは歩いていた。
カイルの少し後ろ。
いつもと同じ距離。
だが、
視線の向きが違う。
人々が、
こちらを見ている。
すぐに逸らす者。
露骨に見る者。
小声で何かを言う者。
最初は、
気のせいかと思った。
だが、
違う。
確実に、
向けられている。
「……あの子じゃない?」
「ほら、例の……」
「神殿の……」
言葉は小さい。
だが、
断片だけで意味は伝わる。
角を曲がる。
別の通り。
同じだ。
露店の前で、
女がはっきりと言った。
「神殿事件の元凶だって」
隣の男が頷く。
「危険な能力者らしいぞ」
別の声が重なる。
「国を混乱させてるって話だ」
レティシアの足が、
ほんのわずかに止まる。
一瞬。
それだけ。
カイルが振り返る。
何も言わない。
だが、
視線だけで状況を測る。
レティシアは再び歩き出した。
表情は変わらない。
だが、
内側では、
何かがはっきりと見えていた。
視界の奥に、
淡い表示が浮かぶ。
INFORMATION FLOW
DISTORTED
言葉の流れが、
歪んでいる。
事実ではない。
だが、
完全な嘘でもない。
“繋げ方”が変えられている。
神殿の事件。
彼女の関与。
その結果。
本来なら別の意味を持つ断片が、
一つの方向へまとめられている。
危険。
異端。
原因。
レティシアは理解する。
(……作られてる)
自然に広がった噂ではない。
意図的に、
流されている。
一人が言う。
それを二人が聞く。
二人が別の場所で言う。
さらに広がる。
流れができている。
カイルが小さく舌打ちした。
「早いな」
低く呟く。
まだ何も始まっていない。
改革も、
実行されていない。
それなのに、
“原因”にされている。
レティシアは周囲を見た。
人々の視線。
距離。
わずかな恐れ。
それが、
答えだった。
信用は、
壊されている。
何もしていなくても。
何も証明されていなくても。
ただ、
そう“見える”ようにされるだけで。
INFORMATION FLOW
DISTORTED
表示が、
静かに点滅する。
レティシアは目を閉じることなく、
そのまま前を向いた。
止まらない。
止まれば、
それが“正しい”ことになる。
再び歩き出す。
人の流れの中へ。
だがその流れはもう、
自然ではなかった。
見えない手によって、
方向を変えられている。