悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜の王都は、
静かではなかった。
遠くで、
誰かの怒鳴り声が響く。
市場の混乱は収まらず、
兵の巡回が増えている。
窓の外には、
不安が残っていた。
宿舎の一室。
灯りは落とされ、
机の上の資料だけが、
かすかに照らされている。
レティシアは、
窓の前に立っていた。
王都を見下ろす位置。
遠くの明かり。
動く影。
そのすべてが、
どこか歪んで見える。
(……動けない)
小さく、
内側で呟く。
王家は理解している。
だが、
動けば割れる。
貴族は仕掛けている。
だが、
表では正論を並べる。
市民は不安に揺れている。
だが、
何が正しいか分からない。
そして――
改革は、
まだ何も始まっていない。
それでも、
結果だけが、
先に広がっている。
失敗。
危険。
混乱。
レティシアの視界に、
淡い表示が浮かぶ。
SYSTEM STATE
PRE-FAILURE
原因は実行されていない。
だが、
状態はすでに“失敗前提”へと傾いている。
彼女はゆっくりと目を細めた。
(まだ始めてないのに)
声にはならない。
だが、
はっきりとした認識。
(失敗にされてる)
風が吹く。
窓の外の灯りが、
わずかに揺れる。
誰も命令していない。
誰も決定していない。
それでも、
流れは決まっている。
下へ。
崩れる方向へ。
カイルが背後で壁にもたれている。
腕を組み、
黙って外を見ていた。
「……詰んでるように見えるな」
低く言う。
事実の確認。
レティシアは振り返らない。
「見えるだけ」
静かな返答。
まだ、
終わっていない。
だが、
終わったように見せられている。
それが、
一番厄介だった。
レティシアは再び前を向く。
視界の奥で、
流れが歪んでいる。
情報。
物資。
人の意思。
すべてが、
同じ方向へ引かれている。
彼女は理解する。
これは――
戦いだ。
剣ではない。
力でもない。
“結果を先に作る”戦い。
そして今、
彼女たちは、
まだ何もしていないのに、
負けた位置に立たされている。
静寂が落ちる。
その中で、
ただ一つの事実だけが残る。
改革は失敗していない。
だが、失敗したことにされていた。