悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都を見下ろせる場所は、
そう多くない。
外縁の古い見張り台。
半ば使われなくなった石の塔。
風だけが、
自由に通り抜けていく。
レティシアは、
その縁に立っていた。
眼下に広がる王都。
白い街路。
区画ごとに分かれた建物。
点のように動く人影。
遠くに、
市場。
さらに奥に、
倉庫街。
外へ伸びる道の先に、
輸送路。
すべてが、
見える。
カイルは少し離れた場所で、
壁に背を預けている。
何も言わない。
今は、
言葉のいらない時間だと分かっている。
レティシアの視界に、
これまで見てきた光景が重なる。
閉ざされた倉庫。
動かない物資。
止まった輸送路。
進まない荷車。
空の市場。
高騰する価格。
そして、
分け合うパン。
一つ一つは、
別の場所の出来事。
だが――
今、
一つに繋がる。
頭の中で、
流れが再構成される。
倉庫。
止める。
輸送。
遅らせる。
市場。
不足化。
市民。
不安化。
線が引かれる。
点と点が繋がる。
そして、
一つの形になる。
レティシアの瞳が、
わずかに揺れた。
(……そういうことか)
理解ではない。
確信だ。
視界に、
静かに表示が浮かぶ。
RESOURCE FLOW MAP
SYSTEM LINKED
数字で見た構造。
現場で見た現実。
その二つが、
完全に一致する。
ズレはない。
誤差もない。
すべてが、
同じ方向を指している。
レティシアは、
ゆっくりと息を吐いた。
(全部……)
わずかに目を細める。
(繋がってる)
偶然ではない。
自然でもない。
意図だ。
流れを止め、
遅らせ、
歪め、
結果を作る。
それが、
この国で起きていること。
風が吹く。
髪が揺れる。
だが、
視界はぶれない。
もう、
迷いはない。
問題は明確だ。
そして――
解き方も。
カイルが背後で口を開く。
「で?」
短い一言。
レティシアは振り返らない。
視線は、
街の流れに向けたまま。
静かに答える。
「……通せばいい」
それだけだった。
だが、
その一言に、
すべてが含まれている。
止められているなら、
戻す。
遅らされているなら、
繋ぐ。
それだけで、
流れは変わる。
レティシアは、
王都を見下ろしたまま、
動かない。
その瞳には、
もう“観察”ではなく、
“実行”の光が宿っていた。