悪役令嬢は世界のバグを修正する
王宮の奥。
重い扉の向こうに、
その部屋はあった。
内議室。
外からの音は、
ほとんど届かない。
厚い石壁と、
幾重にも重ねられた扉が、
王都の喧騒を切り離している。
だが――
静かではない。
沈黙が、
満ちている。
長い円卓。
その周囲に、
限られた者だけが座っている。
王。
摂政。
王弟。
そして、
数名の側近。
数は少ない。
だが、
この国の“決定”はここで生まれる。
誰も、
不用意に口を開かない。
視線だけが、
交差する。
その一つ一つに、
意味がある。
軽い言葉は、
許されない。
一言が、
政策になる。
一言が、
敵を作る。
そして、
一言で――
国が傾く。
卓上には、
資料が並んでいる。
報告書。
数字。
地図。
そして、
一枚の紙。
そこに記されているのは、
ただ一つの議題。
「レティシアの改革案」
それだけで、
十分だった。
誰もが理解している。
これは、
単なる政策の話ではない。
選択だ。
進むか。
止まるか。
壊すか。
守るか。
その境界線が、
この卓の上に置かれている。
王はまだ口を開かない。
肘掛けに指を置き、
わずかに組む。
視線は、
資料ではなく、
人へ向けられている。
誰が何を言うか。
どこに立つか。
それを見ている。
摂政は目を伏せたまま、
沈黙を保つ。
王弟は腕を組み、
わずかに椅子へ体を預けている。
余裕のようにも見える。
だが、
その視線は鋭い。
側近たちは、
息を詰めるようにしている。
発言の順番を待っているのではない。
“誰が最初に踏み込むか”を、
見極めている。
この場に、
安全な立場はない。
どちらに転んでも、
代償がある。
それを、
全員が理解している。
沈黙が続く。
長いようで、
短い時間。
やがて――
王がゆっくりと視線を上げた。
それだけで、
空気が変わる。
会議が、
始まる。
ここは、
王家の中枢。
だが、
今この場は――
決して安全圏ではなかった。