悪役令嬢は世界のバグを修正する
扉が、
静かに叩かれた。
短く、
規律正しい音。
室内の視線が、
一斉にそちらへ向く。
「……入れ」
王の声。
低く、
抑えられている。
扉が開く。
外の空気が、
わずかに流れ込む。
その中に、
一人の少女が立っていた。
レティシア。
歩みは静か。
だが、
迷いはない。
円卓の中心へ向かう。
その一歩一歩が、
場の均衡を揺らす。
“内側”の空間に、
“外”の存在が入ってくる。
それだけで、
空気が変わる。
視線が集まる。
評価ではない。
観察でもない。
“異物を見る目”。
露骨に眉をひそめる者もいる。
王弟は腕を組んだまま、
わずかに口角を上げた。
顧問の一人は、
あからさまに視線を逸らす。
歓迎されていない。
それは、
言葉よりも明確だった。
レティシアは立ち止まる。
円卓の外側。
その位置が、
すべてを示している。
“参加者ではない”。
だが、
無視もできない。
その曖昧な位置に、
彼女は立っていた。
沈黙。
誰も先に口を開かない。
試している。
どのように出るか。
何を言うか。
どこに立つか。
そのすべてを、
見極めようとしている。
やがて――
王が口を開いた。
視線が、
まっすぐにレティシアへ向けられる。
揺れない。
逃げない。
そのまま、
問いを投げる。
「お前は――」
一拍。
「王家に、何を望む」
短い言葉。
だが、
その意味は重い。
忠誠を問うているのではない。
従うかどうかでもない。
“立場”だ。
どこに立つのか。
何を優先するのか。
王家を支えるのか。
それとも、
利用するのか。
その線引きを、
求めている。
室内の空気が、
さらに張り詰める。
誰も動かない。
答え一つで、
この場の均衡が変わる。
レティシアは、
一瞬だけ目を伏せた。
そして、
ゆっくりと顔を上げる。
その瞳には、
もう迷いはなかった。