悪役令嬢は世界のバグを修正する
問いは、
短かった。
だが、
逃げ場はない。
「お前は、王家に何を望む」
その意味を、
レティシアは正確に受け取っていた。
忠誠か。
従属か。
それとも――
別の何かか。
すぐには答えない。
沈黙が、
わずかに伸びる。
視線が集まる。
急かす者はいない。
だが、
待っている。
その“間”すら、
評価の対象だった。
レティシアは、
一度だけ目を閉じる。
頭の中で、
整理する。
倉庫。
輸送路。
市場。
裏通り。
見てきた現実。
感じた重さ。
それらを、
言葉に落とす。
ゆっくりと、
目を開く。
そして――
静かに口を開いた。
「……守るべきは、流れです」
室内が、
わずかに揺れる。
誰もすぐには反応しない。
予想された答えではない。
忠誠でも、
従属でもない。
別の軸。
レティシアは続ける。
「物資の流れ」
「情報の流れ」
「生活の流れ」
一つずつ、
区切るように。
曖昧にしない。
具体的に、
定義する。
「それらが止まれば――」
一瞬だけ、
言葉を置く。
そして、
はっきりと言い切った。
「国は、勝手に崩れます」
静寂が落ちる。
強い言葉ではない。
だが、
否定できない言葉だった。
誰かが壊すのではない。
戦争でも、
反乱でもない。
ただ、
流れが止まるだけで。
それだけで、
崩れる。
レティシアの視線は、
王に向けられたまま動かない。
そこに、
媚びも、
恐れもない。
ただ、
事実を置いている。
国家は、
形ではない。
制度でもない。
権力でもない。
循環だ。
流れているから、
成り立つ。
止まれば、
終わる。
それだけだと、
示している。
室内の空気が、
変わる。
評価ではない。
理解に近い何か。
だが同時に、
反発も生まれる。
この言葉は、
誰の側にも立っていない。
王家でも、
貴族でもない。
“構造そのもの”の側だ。
だからこそ、
危うい。
そして――
動かしやすい。
レティシアは、
それ以上は言わない。
言う必要がないと、
分かっているからだ。
すでに、
核心は示した。
あとは――
どう受け取るかだけだった。