悪役令嬢は世界のバグを修正する
会議は、
静かに終わった。
終結の宣言はない。
決着の言葉もない。
ただ、
王が席を立ち、
それに続いて全員が動いた。
それだけで、
場は解かれる。
重い扉が開き、
それぞれが外へ出ていく。
同じ空間にいたはずの者たちが、
まるで別の方向へ、
流れていく。
廊下は広い。
だが、
距離はそれ以上に開いていた。
最初に動いたのは、
若い側近たちだった。
歩みは速い。
視線は前を向いている。
「すぐに準備を」
「対象を絞るべきだ」
小声で交わされる言葉。
迷いはない。
決まったと、
受け取っている。
完全な命令ではなくても、
十分だった。
彼らはすでに、
動き出している。
その後ろで、
宰相が歩く。
ゆっくりと。
側近の一人が近づく。
「どう見ますか」
短い問い。
宰相は、
すぐには答えない。
数歩進んでから、
静かに言う。
「……見るしかあるまい」
肯定でも、
否定でもない。
評価は保留。
動きもしない。
止めもしない。
ただ、
観る。
その位置に、
立っている。
一方で――
王弟は、
別の回廊を歩いていた。
隣には、
例の顧問。
二人の歩調は揃っている。
「面白い流れだな」
王弟が、
小さく笑う。
顧問が答える。
「ええ。放っておけば、崩れます」
言葉は穏やか。
だが、
意図は明確だった。
「ならば――」
王弟の声が低くなる。
「少し押してやるか」
妨害。
止めるのではない。
“崩れるように動かす”。
すでに、
動きは決まっている。
彼らもまた、
行動を開始する。
廊下の分岐。
それぞれが、
別の道へ進んでいく。
交わることはない。
同じ会議にいたとは、
思えないほどに。
レティシアは、
その様子を少し離れた場所から見ていた。
誰も声をかけない。
だが、
視線だけは残る。
期待。
警戒。
敵意。
すべてが混ざっている。
カイルが隣に立つ。
「綺麗に割れたな」
事実の確認。
レティシアは、
静かに頷く。
一枚ではない。
最初から、
一つではなかった。
それが、
形になっただけだ。
王家は、
一枚岩ではない。
そして――
それぞれが、
別の方向へ動き出している。
流れは、
もう一つではなかった。