悪役令嬢は世界のバグを修正する
王宮の大議場は、
いつもとは違う顔をしていた。
重厚な扉が開かれ、
人の流れが絶えない。
普段は限られた者しか入れない空間に、
今日は“観客”がいる。
ざわめきが、
天井の高い空間に反響していた。
中央には、
円形に配置された討論席。
磨かれた石床の上に、
等間隔で並ぶ椅子。
誰がどこに座るか、
それだけで意味を持つ配置。
その周囲を囲むのは、
貴族たち。
格式ある衣装。
静かな視線。
だが、
その奥にあるのは警戒だった。
さらに外側には、
官僚や商人たち。
書類を抱え、
互いに小声で言葉を交わす。
計算と利害が、
空気に混ざっている。
そして――
最も上の層。
段状に設けられた観覧席。
そこに、
一般市民が座っていた。
服装はまちまち。
労働者。
商人見習い。
女や子どももいる。
彼らは、
落ち着かない様子で周囲を見渡している。
場違いだと感じている者もいれば、
何かが起きると期待している者もいる。
ここは、
閉じた会議室ではない。
隠された交渉の場でもない。
“見せるための場所”。
政治が、
初めて外へ開かれた空間。
ざわめきの中で、
声が混ざる。
「本当にやるのか……」
「貴族と、あの娘が?」
「何が決まるんだ」
答えは、
誰も知らない。
だが、
全員が理解している。
これはただの議論ではない。
“何かが変わる場”だと。
やがて、
中央の席に人が現れ始める。
一人。
また一人。
視線が、
自然とそこへ集まる。
ざわめきが、
わずかに収まる。
期待。
不安。
疑い。
それらが混ざり合い、
空気を重くする。
そして――
誰もが気づく。
これは、
内輪の議論ではない。
ここで語られる言葉は、
この場にいる全員に届く。
貴族にも。
商人にも。
そして、
民にも。
政治が、
初めて“見られている”。
その事実だけで、
場の意味は、
すでに変わっていた。