悪役令嬢は世界のバグを修正する
数字の余韻が、
まだ場に残っている。
理解は進んだ。
だが、
それだけでは足りない。
“何が起きているか”は見えた。
だが、
“何が起きているのか”は、
まだ遠い。
レティシアは、
一度だけ目を閉じた。
思い出す。
倉庫の中の、
動かない山。
市場の、
空の棚。
そして――
裏通り。
細い路地。
痩せた子ども。
分けられたパン。
その光景を、
そのまま持ってくる。
彼女は、
静かに口を開いた。
「低所得地区では――」
ざわめきが、
わずかに止まる。
「食料が足りていません」
先ほどと同じ言い方。
だが、
意味が違う。
「価格は上昇しています」
誰かが、
小さく息を呑む。
数字で聞いたはずの事実が、
別の形で刺さる。
「一部では、」
わずかな間。
「一日の収入で、半日の食料しか買えません」
静かな言葉。
だが、
重い。
観覧席の空気が、
明確に変わる。
今までは、
遠かった。
“市場”という言葉の中の話だった。
それが、
生活になる。
誰かの一日になる。
レティシアは続ける。
「地方では、」
視線が、
少しだけ横に流れる。
「農民が契約で縛られています」
「販売先は限定され、」
「他の流通を使えません」
ざわめきが、
低く広がる。
「売らなければ、来年の種が買えない」
誰かの声ではない。
だが、
現実として置かれる。
選択ではない。
強制に近い構造。
場の空気が、
ゆっくりと沈む。
ここで初めて、
数字と現実が繋がる。
あるのに出ない。
だから、
届かない。
その結果、
誰かが困っている。
レティシアは、
最後に一言だけ言った。
「届いていません」
それだけだった。
説明はない。
感情の強調もない。
だが、
その言葉で十分だった。
誰に届いていないのか。
なぜ届いていないのか。
もう、
分かる。
場の中で、
何かが変わる。
数字は、
理解させる。
だが、
現実は、
受け入れさせる。
そして今――
その二つが、
繋がった。