悪役令嬢は世界のバグを修正する
ざわめきは、
まだ消えない。
収まる前に、
次が来る。
レティシアは、
その隙を待たなかった。
思考が揺れている今だからこそ、
重ねる。
「倉庫稼働率」
視線は、
再び資料へ。
「九十パーセント以上」
短い提示。
だが、
意味は重い。
「……九十?」
誰かが呟く。
それは、
“ほぼ満杯”を意味する。
足りないはずの物資が、
どこかに溜まっている。
その認識が、
ゆっくりと広がる。
レティシアは続ける。
「出庫率」
一拍。
「低下しています」
今度は、
はっきりとした違和感。
「出してない……?」
誰かの声が、
そのまま疑問になる。
あるのに、
出ていない。
先ほどの数字と、
繋がる。
そして、
最後に。
「保管料」
ほんのわずか、
声が低くなる。
「上昇」
その一言で、
空気が変わる。
商人たちの顔が、
はっきりと歪む。
「……上げてるのか」
理解が、
一気に進む。
止めている。
だから、
溜まる。
溜めている間に、
値段が上がる。
そのために、
出さない。
点だった情報が、
線になる。
レティシアは、
顔を上げた。
ざわめきの中心を、
まっすぐに見る。
そして、
静かに言う。
「物資は存在しています」
強くはない。
だが、
否定できない。
市場にないのではない。
消えたのでもない。
そこにある。
ただ――
出ていない。
その認識が、
一瞬で広がる。
「……じゃあ」
誰かが、
言葉を探す。
「なんで、出さない?」
疑問が、
次の段階へ進む。
不足という前提は、
完全に崩れた。
代わりに浮かぶのは、
意図。
止めているのは誰か。
なぜ止めるのか。
場の視線が、
ゆっくりと動く。
数字から、
人へ。
構造から、
責任へ。
レティシアは、
何も付け加えない。
事実は、
すでに十分だった。
この瞬間、
認識は変わる。
“ない”から、
“出ていない”へ。