悪役令嬢は世界のバグを修正する
揺らぎかけた空気に、
言葉が差し込まれる前に。
「――それ、無理あるぞ」
低い声が、
横から割り込んだ。
間を与えない。
迷いが形になる前に、
断ち切る。
視線が一斉に動く。
中央席の端。
壁にもたれていたカイルが、
ゆっくりと体を起こした。
手には、
束ねられた資料。
乱雑に見えるが、
整っている。
彼は前に出ない。
その場で、
紙束を軽く叩いた。
「例外、ね」
短く繰り返す。
皮肉はない。
だが、
温度もない。
「じゃあ確認しようか」
一枚、
紙をめくる。
「倉庫利用記録」
視線は、
貴族席へ向いたまま。
「西物流門、第三区画、第七倉庫」
「管理者、同一名義」
間を置かずに、
次。
「南側中継倉庫、第二、第四」
「同じく同一管理」
ざわめきが、
わずかに強まる。
「北門外倉庫群」
「使用率九割超え」
「出庫記録――ほぼ停止」
言葉は短い。
だが、
繋がっていく。
点ではない。
線になる。
カイルは、
さらに紙をめくる。
「通行記録」
「荷車は通ってる」
「数も増えてる」
「でも、市場には出てない」
視線が、
今度は観覧席へ流れる。
「で、契約書」
軽く振る。
「販売先限定」
「倉庫使用は指定ルートのみ」
「違反したら、取引停止」
商人たちの顔が、
明確に変わる。
理解している。
それが何を意味するか。
逃げ場がない。
流れが固定される。
そして――
カイルは、
紙束を止めた。
一拍。
場を見渡す。
貴族。
官僚。
市民。
全員を、
同じ目で見る。
そして、
言った。
「偶然でこうはならない」
静かな断言。
だが、
逃げ道はない。
一つの倉庫なら、
偶然かもしれない。
一つの契約なら、
例外かもしれない。
だが、
複数。
同時。
同じ構造。
それはもう、
現象ではない。
仕組みだ。
場の空気が、
止まる。
さっきまであった“揺らぎ”が、
消える。
例外では説明できない。
自然でもない。
残るのは、
一つだけ。
“意図”。
視線が、
ゆっくりと貴族席へ戻る。
今度は、
違う意味で。
問いではない。
確認でもない。
理解だ。
これは――
操作されている。