悪役令嬢は世界のバグを修正する
討論会は、
静かなざわめきのまま終わった。
歓声はない。
拍手もない。
勝敗を宣言する者も、
いなかった。
だが、
空気は変わっていた。
人々は席を立ちながら、
話している。
今までとは違う内容を。
「本当に不足してたのか?」
「倉庫にあるって……」
「止めてたのは誰だ?」
問いが残っている。
それだけで十分だった。
議場の上層席から、
市民たちが降りていく。
彼らの顔にあるのは、
盲信ではない。
だが、
無関心でもない。
初めて、
自分で考え始めている。
商人たちは、
重い顔で資料を見返していた。
計算が合わない。
いや――
合いすぎている。
だからこそ、
怖い。
市場だと思っていたものが、
操作されていた可能性。
その認識は、
簡単には消えない。
一方で、
貴族席。
彼らは静かに退席していく。
誰も騒がない。
怒鳴らない。
だが、
表情は硬い。
理解している。
完全には崩れていない。
権力も、
契約も、
流通も、
まだ握っている。
だが、
一つ失った。
“当然”を。
これまで、
誰も疑わなかった。
物流の停滞。
価格の高騰。
市場の混乱。
それらは、
仕方ないものとして扱われていた。
だが今、
そこに“意図”を考える者が現れた。
それが、
最大の変化だった。
王族席では、
王が静かに議場を見下ろしている。
何も言わない。
だが、
以前より動きやすくなった。
民意が変わり始めている。
完全支持ではない。
それでも、
“観測”できる。
改革派の側近たちは、
既に動き始めていた。
慎重派は、
沈黙したまま考えている。
保守派は、
守りへ回る。
流れが変わった。
まだ小さい。
だが、
確実に。
議場の出口へ向かうレティシアの隣で、
カイルが小さく息を吐く。
「……勝った感じはしねぇな」
レティシアは、
前を見たまま答える。
「勝ってません」
即答だった。
まだ終わっていない。
構造は残っている。
流れも、
完全には戻っていない。
だが――
彼女の視界には、
淡い表示が浮かんでいた。
INFORMATION FLOW
DESTABILIZED
固定されていた認識が、
崩れ始めている。
それだけで、
意味がある。
レティシアは、
静かに目を細めた。
真実は勝ったわけではない。
だが――
初めて、疑われた。