悪役令嬢は世界のバグを修正する
公開討論会の翌日。
王都の空気は、
明らかに変わっていた。
だが、
静かになったわけではない。
むしろ逆だった。
ざわめきが、
広がっている。
市場。
酒場。
掲示板の前。
荷車の列。
人々は、
同じ話をしていた。
「倉庫に物はあるらしい」
「止められてるって……本当か?」
「誰が?」
今までとは違う。
不満ではない。
“疑問”になっている。
それが、
危険だった。
王都市場では、
商人たちが帳簿を見返していた。
「この契約、おかしくないか?」
「出庫条件が増えてる……」
「いつの間にこんな条項を……」
今まで当然だと思っていたものを、
確認し始める。
価格。
保管料。
優先権。
流通許可。
全部、
“そういうもの”として受け入れていた。
だが今は違う。
“誰が決めているのか”を見るようになる。
一方、
地方でも動きが出始めていた。
王宮へ届く問い合わせ。
「我が州の備蓄状況確認を求む」
「物流停止の理由説明を要求」
「契約更新条件の再検討願い」
まだ抗議ではない。
だが、
確実に揺れている。
今まで中央を信用していなかった地方ですら、
“何かがおかしい”と感じ始めていた。
そして――
その動きを、
当然ながら貴族側も見ている。
王都北区。
重厚な石造りの屋敷。
外から見れば、
静かな夜会。
だが、
中の空気は違った。
長机を囲む有力貴族たち。
誰も笑っていない。
討論会の記録が、
机に並べられている。
レティシア。
カイル。
主任。
その名前が、
何度も出る。
「……想定以上だ」
低い声。
「民が考え始めている」
別の男が、
苛立ちを隠さず言う。
「放置すれば、契約構造まで疑われる」
「地方にも波及するぞ」
沈黙。
重い。
もう、
公開討論会を“茶番”では済ませられない。
理解している。
流れが変わり始めている。
そして――
その中心にいるのが、
レティシアだ。
老貴族の一人が、
静かに口を開く。
「これ以上――」
視線が、
全員を巡る。
「流れを許すな」
短い言葉。
だが、
そこに含まれる意味は重い。
今までは、
防いでいた。
誤魔化していた。
逸らしていた。
だが、
もう違う。
止めるだけでは足りない。
押し返さなければならない。
誰かが、
低く問う。
「……どこまでやる?」
返答は、
すぐだった。
「必要なところまでだ」
その瞬間。
会議室の空気が、
完全に変わる。
防衛ではない。
牽制でもない。
これは――
反撃だ。