悪役令嬢は世界のバグを修正する
軍補給の遅延が問題化し始めた頃。
同時に、
別の報告が王宮へ流れ込んでいた。
今度は、
地方。
王宮情報局。
机の上に、
封蝋付きの報告書が積み上がっている。
西部州。
北方辺境。
南部農業地帯。
地域は違う。
だが、
内容は似ていた。
「領民の不安増大」
「地方議会にて中央警戒論」
「領主私兵の巡回増加」
文官が、
険しい顔で呟く。
「……早すぎる」
討論会から、
まだ日が浅い。
それなのに、
地方全体へ空気が広がっている。
誰かが、
意図的に流している。
報告書を開く。
そこには、
同じような言葉が並んでいた。
『中央が物流権限を接収予定』
『徴税制度変更の噂あり』
『地方自治権縮小の可能性』
『王家直轄管理強化案』
どれも、
正式発表ではない。
だが、
否定しきれない形になっている。
“ありそう”に見える。
それが厄介だった。
地方では、
中央への不信が根深い。
距離が遠いほど、
情報は歪む。
そして今、
その歪みを誰かが利用している。
「中央が権限を奪うらしい」
「徴税を増やす気だ」
「地方を潰すつもりだぞ」
噂は、
不安を餌に広がっていく。
さらに問題なのは――
兵だった。
北部州。
巡回報告。
『領主軍、集結確認』
南西州。
『武装警備増員』
西部辺境。
『徴募訓練再開』
軍議室の空気が、
明確に変わる。
「……反乱か?」
誰かが言う。
だが、
即座に否定が返る。
「いや、違う」
実際には、
宣戦もない。
進軍もない。
王家への敵対声明もない。
つまり――
まだ“反乱”ではない。
だが、
反乱に見える。
それが問題だった。
地方領主たちは、
理解している。
本当に反乱を起こせば、
王家も動く。
だが、
“その手前”なら。
緊張だけを作れる。
王家に、
選択を迫れる。
押すか。
止まるか。
そして、
もし押せば――
国が割れる。
王宮内。
地図の前で、
カイルが小さく舌打ちした。
赤印が増えている。
不穏地域。
兵集結地点。
流通停止区域。
全部が、
繋がり始めていた。
「綺麗にやってるな……」
怒りより、
呆れに近い声。
レティシアは、
地図を見つめたまま動かない。
視界に、
淡い表示が浮かぶ。
REGIONAL STABILITY
DECLINING
POLITICAL PRESSURE
ESCALATING
そして、
一番大きく表示される。
RISK:
NATIONAL FRACTURE
彼女は理解する。
これは、
戦争ではない。
だが、
戦争の準備と同じだ。
武器を抜かず、
国家を割る位置へ持っていく。
そのための圧力。
王家へ向けた、
無言の脅迫。
――押せば、国が割れる。