悪役令嬢は世界のバグを修正する
数日後。
王都で語られる言葉は、
さらに変わっていた。
最初は、
「物流が止まっている」だった。
次に、
「誰かが操作している」になった。
そして今――
“改革そのもの”が、
別の意味へ塗り替えられ始める。
王都中央広場。
掲示板の前に、
人だかりができていた。
新しく貼られた新聞。
大きな見出し。
『中央管理強化案か』
『地方権限縮小の懸念』
『市場自由化の終焉』
通行人たちが、
ざわつく。
「やっぱり王家が握る気なんじゃ……」
「物流まで中央管理されたら終わりだろ」
「地方はどうなる?」
言葉が変わる。
“改革”ではなく、
“支配”。
“改善”ではなく、
“専制”。
その印象が、
静かに浸透していく。
酒場でも同じだった。
「王が全部管理するらしい」
「貴族を潰した次は商人だ」
「自由市場なんて消えるぞ」
断定ではない。
だが、
不安を煽るには十分だった。
人は、
分からない未来を恐れる。
そして今、
その恐怖の向きが、
意図的に作られている。
王宮議会でも空気は悪化していた。
「中央集権化は危険です」
「地方反発を軽視すべきではない」
「権限集中は腐敗を生む」
発言そのものは、
間違っていない。
だから厄介だった。
真実を混ぜている。
そこに、
今の不安を接続する。
結果、
レティシアの改革案は、
“物流改善”ではなく、
“王権強化”として扱われ始める。
慎重派の文官たちも、
完全には反論できない。
彼らは現実を見ている。
地方は揺れている。
軍補給も危うい。
市場も不安定。
ここでさらに押せば、
本当に崩れるかもしれない。
宰相が、
疲れた声で呟く。
「……正しいかどうかではなくなっている」
誰も返答しない。
もう議論は、
改革内容だけの話ではない。
国家の安定。
権力構造。
地方統制。
全部が絡み始めている。
王宮内の空気が、
重く沈む。
改革派ですら、
以前ほど強く押せなくなっていた。
もし失敗すれば。
もし地方が爆発すれば。
もし軍補給が崩れれば。
その責任は、
全部王家へ来る。
王の執務室。
窓の外を見ながら、
王は沈黙していた。
机には、
大量の報告書。
地方不穏。
軍補給遅延。
市場混乱。
世論悪化。
その中に、
一枚の新聞が置かれている。
『王権専制への第一歩か』
王はそれを見つめ、
静かに目を閉じた。
理解している。
これは偶然ではない。
誰かが、
流れを作っている。
だが同時に、
無視できない。
もし押せば。
本当に国が割れる可能性がある。
低く、
誰にも聞こえない声で呟く。
「……本当に押して大丈夫か?」
その問いに、
答えられる者はまだいなかった。