悪役令嬢は世界のバグを修正する
王宮旧塔。
王都を最も高く見下ろせる場所。
夜風が、
静かに石壁を打っていた。
レティシアは一人、
塔の端に立っている。
眼下には、
夜の王都。
無数の灯りが、
闇の中で揺れていた。
市場区画。
倉庫街。
輸送路。
以前なら、
夜になると止まっていた流れ。
だが今は違う。
荷車が動いている。
倉庫の灯りが消えていない。
夜間輸送の確認作業が続いている。
小規模市場も、
翌朝の準備を始めていた。
少しだけ。
小さく。
だが確かに。
流れは戻り始めている。
改革は、
世界を変えたわけじゃない。
飢餓も消えていない。
貴族の支配も残っている。
地方不安も、
水面下工作も終わっていない。
それでも、
止まり続けていた国は、
わずかに動き出した。
その光景を見下ろしながら、
レティシアは静かに目を細める。
最初は、
この国を直そうと思っていた。
流通を戻し、
制度を修正し、
市場を正常化する。
そうすれば、
停滞は解決できると思っていた。
だが違った。
この国だけじゃない。
神殿。
貴族。
国家制度。
国外市場。
全部が、
同じ方向を向いている。
発展を制限する。
流れを抑える。
変化を遅らせる。
その巨大な管理構造が、
世界規模で存在している。
視界の奥に、
淡い表示が浮かび上がる。
SYSTEM STRUCTURE
PARTIALLY REVEALED
CONTROL LAYER
DETECTED
FLOW RESTRICTION
SYSTEMIC
“SYSTEMIC”。
局所ではない。
国家単位ですらない。
世界全体へ組み込まれている。
夜風が吹く。
王都の灯りが、
静かに揺れた。
その下で、
人々は生きている。
流れを止められた世界の中で。
管理された停滞の中で。
だが今、
ほんの僅かでも流れは戻り始めている。
レティシアは、
ゆっくりと夜空を見上げた。
その瞳には、
もう迷いはない。
彼女はようやく理解した。
止められていたのは、
国ではない。
――世界そのものだった。