7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
成層圏の彼方、『』の目前。
巨大な飛行戦艦『希望号』は、神の防衛システムの猛攻に晒されていた。
「左舷、第三防壁消滅! 敵迎撃ユニット、数え切れません!」
「エンジン出力、限界です! このままでは……!」
艦橋に響く悲鳴のような報告。
代理指揮を執るアクアは、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、必死に指示を飛ばしていた。
「怯まないで! 回避パターン・デルタ! シエル、魔力供給のバイパスを確保して!」
「了解です、アクア様! ですが、演算処理が追いつきません!」
現実は非情だ。
無数の光線が雨あられと降り注ぎ、『希望号』の装甲を削り取っていく。
『風神の翼』の輝きも、魔力切れ寸前で明滅している。
「くっ……ここまで、ですか」
アクアが唇を噛み締め、論理的な敗北を予感したその時だった。
「叔母様――あそこだよ!!」
艦橋の窓際で、アルテミスが叫んだ。
彼女は虚空の一点を指差している。
「え?」
アクアが顔を上げる。
次の瞬間、空が、割れた。
『天上の御座』の上空、何もない虚空に、巨大な光の亀裂が走ったのだ。
そこから溢れ出したのは、破壊の光ではない。
どこまでも温かく、懐かしく、そして力強い――七色の光の奔流だった。
「あ、あれは……!」
レヴィアが、テラが、セフィラが、ヴァルキリアが、窓に駆け寄る。
光の中から、一人の男が飛び出した。
ボロボロの服、乱れた髪。だが、その瞳に宿る光は、以前よりも強く、鮮烈に輝いている。
竜の王、ヒカル・クレイヴ。
彼が、虚数空間の彼方から、子供たちの祈りを道標に、自らの意志で戻ってきたのだ。
「すまない……。待たせたな、みんな!!」
ヒカルの声が、真空の宇宙空間に響き渡る(理屈ではない、魂の共鳴だ)。
彼は右手を掲げた。そこには、再び輝きを取り戻した『』があった。
「いくぞ! 反撃開始だ!」
ヒカルが剣を一閃させると、七色の光が『希望号』を包み込んだ。
それは単なる魔力の供給ではない。「王の帰還」という事実そのものが、全乗組員の魂に火を点け、限界を超えた力(BPIリミッター解除)を引き出したのだ。
「うおおおおッ!! 王が! 王が戻られたぞ!」
「力が……力が湧いてくる!」
『希望号』のエンジンが、爆発的な轟音と共に再起動する。
『風神の翼』が、真紅に輝き、成層圏の薄い空気を掴んで加速する。
その光は、王妃たちにも劇的な変化をもたらした。
ヒカルの「絆の共感者」が、再び彼女たちの心と繋がる。
絶望に塗りつぶされていた彼女たちの魔力回路に、王の愛という熱量が注ぎ込まれたのだ。
「ああ……! この熱さ! ヒカルの愛だわ!」
レヴィアの全身から、BPI 1500を超える爆炎が噴き上がる。
その激情はオーラとなって艦外へ広がり、炎竜部隊の兵士たちの闘志を一気に沸点へと押し上げた。
「姫様の炎が戻った! 全員、突撃だ! 焼き尽くせ!」
「計算式が……全てプラスに転換しました!」
アクアの理性が、勝利への最適解を弾き出す。
彼女の冷静な指揮は、水竜部隊だけでなく全艦のクルーに伝播し、混乱していた動きが嘘のように統率されていく。
「ターゲット・ロック! 論理的に、全弾必中です!」
「主よ……! 貴方がいるだけで、大地は揺るぎません!」
テラの母性的な魔力が、船体を包む防御結界を鋼鉄以上に硬化させる。
その安心感は、恐怖に震えていた兵士たちの心を、母の腕の中のように落ち着かせた。
「盾を構えろ! 我らが守護は不滅だ!」
「団長! 待ってたよ! 今、最高の風を送るね!」
セフィラが翼を広げると、船体を取り巻く風が加速し、神の迎撃を神速で回避する。
ゼファーが興奮気味に部下たちに向けて手を前にかざした。
「は、速い! ついてこい、皆のもの! 一気に風に乗るよ!」
「契約者……。やはり貴様は、私の闇を照らす光だ」
ヴァルキリアの闇が、敵の死角を正確に貫く。彼女の瞳からは、皆に見えないところで、大粒の涙を流した。
影の部隊が、音もなく敵の砲台を沈黙させていく。
「ヒカル様! 私たちの祈りが、私たちの愛が届いたのですね!」
ルーナの光が、傷ついた者たちを瞬時に癒やし、再び戦う力を与える。
王の帰還。それは単なる戦力増強ではない。
王妃たちの愛を極限まで高め、その愛が配下の兵士たちへと波及し、軍団全体を一つの巨大な生命体へと変貌させる――かつて魔王軍を打ち破った、あの「愛の連鎖」の再現だった。
「全砲門、開けぇぇぇッ!! 邪魔する敵を蹴散らせ!」
機関室でボルタが叫び、魔導砲が一斉に火を噴く。
先ほどまで『希望号』を圧倒していた迎撃ユニットが、次々と火球に変わっていく。
ヒカルは空中で身を翻し、『希望号』の甲板へと着地した。
「パパ!!」
一番に飛びついたのは、アルテミスだった。
「アルテミス……! よく見つけてくれたな」
ヒカルは娘を抱き上げ、その温もりを確かめる。
アルテミスは、ヒカルの首にギュッと腕を回し、耳元で嬉しそうに囁いた。
「えへへ……。パパ、迷子にならなくてえらかったね!」
その無邪気で愛らしい一言に、ヒカルは張り詰めていた心がふっと緩むのを感じた。
「ああ。……アルテミスのおかげだよ」
「ヒカル様!!」
続いて、レヴィアが、アクアが、テラが、セフィラが、ルーナが、ヴァルキリアが。
そしてリリアと子供たちが、一斉に彼に駆け寄る。
「……ただいま」
ヒカルは、泣きじゃくる妻たちと子供たちを、一人ずつ抱きしめた。
「心配かけてごめん。……でも、もう離れない。約束する」
「ううっ……! バカ! バカ夫! 寂しかったのよぉぉぉ!」
レヴィアがヒカルの胸に顔を埋めて号泣する。
「心配させないで……本当に、生存確率は低かったはずです。なのに……!」
アクアが眼鏡を外して涙を拭う。
「主よ……! よくぞ、ご無事で……!」
テラが崩れ落ちそうになるのをヒカルが支える。
ヒカルは、愛する者たちの温もりを全身で感じ、そして顔を上げた。
目の前には、神の居城がそびえ立っている。
だが、もう恐怖はない。
彼には、守るべきものと、共に戦う仲間がいる。
「アクア! 指揮権を戻す!」
「はいっ! お待ちしておりました!」
アクアが涙を浮かべた笑顔で応える。
「聞こえるか、! これが俺たちの『答え』だ!」
ヒカルは『調律の剣』を神の居城に向けた。
「全軍、突撃!! 神の座を、俺たちの愛で塗り替えるぞ!!」
「「「オオオオオオオオオオッ!!!!」」」
『希望号』は、七色の光の尾を引きながら、神の居城へと真っ直ぐに突き進んでいった。
王の帰還。それは、絶望的な防戦から、希望に満ちた反攻への大転換点だった。
最終決戦の幕が、今、切って落とされた。
【第180話へつづく】